事例集
事例12 分譲マンションの敷地を複数に分割して評価した事例
相続財産に被相続人の住まいである分譲マンションの一部屋などの区分所有建物が含まれているケースはよくあります。これらの財産の相続税の評価は土地と建物に分けて行います。
建物の評価額は原則として固定資産税評価額に相当する価額ですので、納税通知書や評価証明書等を見れば、すぐに分かります。
土地は原則として、財産評価基本通達により評価します。一般的な分譲マンションであれば、建物に敷地権が付いており(建築時期が古い区分所有建物はそうでないものもあります)、建物の登記簿を見れば、敷地権の目的となっている土地の所在地番が分かります。これらの土地が評価の対象になりますが、大規模な分譲マンションだと、敷地がかなり広大な地積となり、公図や地積測量図等が複数枚に跨ることもあるため、想定整形地図の作成など評価作業に苦労することが多くあります。
それでも、評価する土地が一つの画地であれば良いのですが、大変なのは、敷地権の目的となっている土地が数筆あり、それらの土地と土地の間に公道等が介在し、その公道が建築基準法第42条に規定する道路に該当するため、路線価が設定されているようなケースです(敷地上には複数の建物が存し、同じ土地が全ての建物の敷地権の目的となっていることが多い)。
このような土地の評価の依頼を、税理士先生等から何度か受けましたが、いずれも、敷地を公道等で分断されている土地ごとに複数に分割して評価しました。評価額は、分割した土地ごとに計算した評価額に敷地権の割合を乗じて算出した価額の合計です。
道路がマンション居住者専用の単なる通路であれば、敷地を分割して評価する必要はないと思いますが、建築基準法第42条に規定する道路に該当し、路線価が設定されている道路(不特定多数の者の通行の用に供されている道路)の場合は、画地を分けて評価するしか方法がないように思います。
弊社で過去に扱った事例では最大で敷地を3つに分割して評価したものがありましたが(敷地権の目的となっている土地は5筆)、いずれの画地も不整形地であったため、想定整形地図を3つ作成するなど、一般的な土地評価の3倍の労力を要しました。
しかし、評価単位は一つの区分所有建物の敷地として1件の扱いですので、業務報酬を3倍請求することはできません。
事例11 地積規模の大きな宅地の評価を適用する場合の容積率に注意!
平成29年の財産評価基本通達の一部改正により、平成30年1月1日以降に相続等により取得する宅地で、一定の要件を満たすものは「地積規模の大きな宅地の評価」の規定を適用して評価することになりました。
改正前の「広大地評価」に比べ、補正率が小さいため、大きな土地を相続した納税者にとって、一般的に不利な改正と思われがちです。しかし、500㎡以上の戸建住宅用地であっても、公共公益的施設用地の負担が必要ない等の理由で広大地評価が適用できなかった土地も適用できたり、さらには、マンション適地であっても一定の要件を満たせば、適用できるなど、改正によるメリット(大きな土地を相続した納税者にとっての)もかなり多いように思えます。
弊社も改正後に税理士先生からの依頼により、「地積規模の大きな宅地の評価」の規定を適用して評価した例がたくさんありますが、改正による恩恵を受けている納税者の方が多いと感じます。
適用できるかどうかの判断も、広大地評価より容易なので、税理士先生や弊社のような土地評価支援を業とする者にとってもメリットは小さくないと思います。
ただし、一点注意を要することがあります。それは、評価する土地の容積率です。容積率には指定容積率と基準容積率の2種類があります。指定容積率は、都市計画の規定により用途地域ごとに定められた容積率です(都市計画図に記載された容積率のこと)。基準容積率は、建築基準法の規定によるもので、前面道路の幅員により制限される容積率です。
財産評価基本通達による土地評価において、従来から容積率が影響するものとしては、「容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地」と「都市計画道路予定地の区域内に存する宅地」の2つがありますが、それらはいずれも指定容積率か基準容積率のどちらか低い方が判断の際の指標とされていました。それが、「地積規模の大きな宅地の評価」に関してだけは、指定容積率が判断の基準とされています。実際の建築現場で採用されるのは指定容積率か基準容積率のどちらか低い方であり、財産評価基本通達も従来はそれに沿った運用がされていたため、これは落とし穴となりえます。
改正当初は弊社もうっかりミスをしかけた事例がありました。それは川越市内の事例です。普通商業・併用住宅地区に存する地積が500㎡以上の土地で、正面路線が2項道路のため、基準容積率は240%となり、「地積規模の大きな宅地の評価」の適用OKと安易に判断してしまいました。ところが、用途地域が商業地域で、指定容積率が400%のため、除外規定に該当する土地です。すぐに気がついたため、大事には至りませんでしたが、なぜ、他の規定と異なり、指定容積率を基準とするのか釈然としないものがありました。
指定容積率であれば、都市計画図を見ればすぐに分かり、基準容積率よりも調査が容易なので、判断を簡易にするための納税者に対する国税局の配慮と理解すればいいのでしょうか?
事例10 借地権の譲渡承諾料の算定の基礎とすべき価格
借地権を第三者に譲渡するときは地主の承諾が必要で、その場合、ほとんどの地主は譲渡承諾料を要求します。この譲渡承諾料は他に名義書換料とか名義変更料と呼ばれることもあり、その相場は一般的に借地権価格の10%で、この割合はほぼ定率化しています。
譲渡承諾料を算定するときの基礎となる借地権価格は、実際に借地権が売買されるのだから、その取引価格となると思われがちですが、そうではなくて、借地権の正常価格、すなわち合理的な自由市場において形成されるであろう適正な市場価格を用いるべきであるとされています。
これは、借地権者の売買交渉の拙劣その他の事情により売買価格が不当に低くなった場合に、その影響を受けて借地権設定者(地主)の受け取る譲渡承諾料が低額となるのは不合理だからという考えによるものです。この考えは、まあ妥当なものと思いますが、弊社がだいぶ以前に扱った事例で、これとはいわば反対の理由により、実際の取引価格によらず譲渡承諾料の金額を決めたものがありました。
扱った事例の借地権設定地は東京都23区内の全国でも有名な超高級住宅地です。弊社は借地権の売買契約自体には関わらず、売買契約が決まった後に、借地権者から譲渡承諾料の算定のみの依頼を受けました。
この借地権設定地は極端な不整形地でしたが、そこは全国有数の超高級住宅地、よほどの高額で売却が決まったのか、借地権者は初回面談時からいつも上機嫌でした。しかし、売買価格が譲渡承諾料の算定に影響するのが嫌なのか、売買価格は最後まではぐらかしたままでした(ちなみに仲介は地元の大手不動産会社が行っています)。高額で売却できたのは借地権者側の高い折衝能力によるもの、その努力の成果を地主に余分に配分する必要はないというのが、この借地権者さんの考えのようです。
取引事例がほとんどない(売り物が出ることが滅多にない)地域でしたので、国税庁の財産基本通達や地価公示等を基礎に譲渡承諾料を算定しましたが、借地権者はこの金額に大満足(弊社報酬もはずんでくれました)。地主も弊社の説明を理解し、すぐに納得しましたので、取引は無事終了しました。
事例9 借地権相続時の分割協議には注意!
ある借地人さんからの相談事例。約10年前に一人暮らしの母が亡くなり、子供4人で実家の借地権付き家屋を相続した。相談者は長男で、子供4人は全員既婚者で持ち家があり、誰も実家に移る気はないため、いったん全員で法定相続割合で相続し、実家の家屋は貸家として賃貸した。その後数年その状態が続き、貸家の賃料は4人で分配していた。だが、不動産の兄弟間の共有は将来所有関係が複雑となり、何かと争いの種となる可能性があるため、4人で協議の末、長男が他の兄弟から持分を購入し、単独で所有することになった。
その長男から、「地主から契約違反で借地契約の解除を求められている。」と相談があった。地主の主張は、地主に無断で借地権の名義変更を行ったというもの。長男に確認すると、兄弟間で借地権の持分を売買した時、地主の承諾は得ていないという。確かに借地人間の持分の移転とはいえ、名義変更に該当するので、地主の承諾は必要である。相続による名義変更は地主の承諾は必要としないから、本件は、母からの相続のときに、長男が一人で借地権を相続し、他の兄弟に代償金を支払うように分割協議(代償分割)すれば良かったのである。
税務上の問題を抜きにすれば、相続時は財産をいったん共同で相続し、その後に共有を解消することは、他の財産の場合は良いと思うが、借地権は名義変更に地主の承諾が必要となるケースが多いので、注意を要する。本相談事案に関しては、近く更新の時期が到来するので、更新料を相場より多少上乗せして支払うことにより契約解除の主張を取り下げてもらうように地主と調整中である。
事例8 遺言書作成時の注意! 死亡退職金は相続財産に含まれない
危急時遺言書の作成を依頼されたときのこと。依頼人は埼玉県某市在住のA氏。がんで長期療養中で、いよいよ危ないと察した親族を介して依頼を受けた。A氏は地方公務員だが、実家が食品の製造販売業で、その経営は弟のB氏に任せている。実家の土地家屋は亡父の相続時に全てA氏が相続していた。A氏の相続人は分かれた妻との間にできた子供である。このままA氏に相続が開始すると、実家の土地家屋はこの子供が相続し、B氏が家業を続けなくなる可能性があるため、弟に実家の土地家屋を遺贈すると遺言したいとのことであった。当方はA氏の詳細な財産内容は分からないが、遺言書作成に際し、子供の遺留分には注意するようにアドバイスした。
A氏は、「子に現金〇〇〇万円を相続させる。他の全ての財産は弟Bに遺贈する。」との趣旨の遺言を残し、その2日後に死亡した。裁判所での危急時遺言書の確認及び検認が終了した後で、相続財産に関しA氏に勘違いがあることが分かった。A氏の相続財産は実家の土地家屋と僅かな預貯金だけで、子供に相続させるとした現金がない(預貯金だけでは足りない)。B氏と同居の母親の話では、A氏は死亡退職金が相続財産になると勘違いしていたらしい。A氏は地方公務員であったため、条例により死亡退職金の受取人は同居の母親と定められており、死亡退職金は相続財産ではなく、母親の固有財産となる。
結局、A氏の子供には、B氏が固有財産で代償する方向で調整が進んでいる。
事例7 土地区画整理事業施行後の土地は広大地評価に該当しない?
埼玉県N市に複数の土地を所有していた大地主の相続案件。相続開始直後に担当の税理士から土地評価業務の依頼を受けました。多くの土地が土地区画整理事業施行区域内に存する農地で、仮換地のほとんどが広大な市街地農地(生産緑地も含む)でした。
その中の一つの畑について、広大地評価に該当するか検討しました。地積は約3000平方メートルで、三路線に面する土地です。正面路線の間口距離が約100メートルであるのに対して奥行距離は約27メートルです。広大地評価に該当するかの判定に際して、重要な要素の1つは奥行距離です。一般的に25m以下なら不可、30m以上なら可(他の条件を満たしている場合)といわれており、25m~30mは、いわばグレーゾーンで、非常に頭を悩ませます。担当の税理士には、「広大地評価に該当する可能性はありますが、公共公益的施設用地の負担が不要との理由で、広大地評価を否認される可能性もあります。しかし、広大地評価を適用するか否かで、億単位で評価額が異なるため、納税者には否認のリスクも説明した上で、広大地評価を適用した方が良いと思います。」と提案しました。
担当税理士もかなり悩み、事前に税務署に相談に行きました。このときに税務署の担当者から税理士が受けた回答が、「土地区画整理事業施行後の土地は広大地評価には該当しない。」とのことで、それを聞いた私はビックリ。確かに、区画整理後の土地は形状がきれいで、道路も整備されていますが、従前地が広大な農地なら、仮換地も今回の事例のように一般的には広大な農地で、奥行距離が30mを超えるものはいくらでもあります。そのような土地は戸建住宅用地として分割するときは、道路の新設が必要な場合もあります。
本件評価地については、納税者に万一の場合のリスクは充分に説明した上で、広大地評価を適用して申告しました。数年前の事例ですが、税務調査時に広大地評価を否認されることはなく、納税は無事終了しました。納税者には大変に感謝されました。
本事例には後日談があります。本件評価地は納税者が相続税納税のために売却したのですが、購入した不動産開発事業者は本件評価地に道路を新設し建売住宅で販売しました。もし、税務署から広大地評価を否認されたら、この開発図面を示して反論する予定でいました。
事例6 設定されている路線価を設定されていないこととして評価した事例
埼玉県某市に所在する土地の相続税評価をしたときの事例です。
評価地の一つである月極駐車場の敷地内にある通路に路線価が設定されていました。私有地で、単なる通路、建築基準法に規定する道路にも該当しない。確かに通り抜けにはなっているが、一見すると全面砂利敷きの駐車場敷地の一部のようで、通路部分が舗装されているわけでもない。何故このような通路に路線価が設定されているのか。
財産評価基本通達によると路線価が設定されるのは「不特定多数の者の通行の用に供されている道路」とされており、必ずしも道路法や建築基準法等の法律に規定する道路に該当することを要件にしていません(この点については、特定路線価設定の申出をするとき、国税庁が出しているチェックシートでは、「特定路線価を設定する道路は建物の建築が可能な道路」とされており、矛盾を感じます)。
そもそもこの通路は、専ら駐車場の利用者が駐車場の出入りに利用しているものであり、不特定多数の者の通行の用に供されている道路とはいえない。この路線価を使ってそのまま評価したら、評価額が不当に高くなる可能性があったので、担当の評価専門官あてに、関係図面や現地写真等を送付して、路線価を消すように申請しました。数日後、評価専門官から「当該路線価は設定されていないこととして評価して欲しい。」との回答がありました。
当然のことながら、相続税の土地評価における、現地調査と役所調査は基本中の基本です。
事例5 倍率地域における高圧線下補正には注意
高圧線下における宅地を評価する場合、区分地上権に準ずる地役権が設定された土地として、一定の割合を減額して評価することができます。この減額割合は当該宅地における家屋等の建築がどの程度制限されるかにより異なります。家屋等が全く建築できない場合は、100分の50か当該地域の借地権割合かいずれか高い方の割合。家屋等の構造、高さ、用途等に制限を受ける場合は、100分の30の割合です。
ところで、倍率地域において、この減額調整を適用する場合は注意を要します。それは当該宅地の固定資産税評価額が高圧線下に存することを斟酌して既に低く評価されている場合があることです。このときに、当該固定資産税評価額をそのまま使用して評価すると不合理な結果(二重引き)が生じることになります。弊社が扱った埼玉県新座市の相続案件でもそのような例がありました。このような場合は評価計算の基礎となる固定資産税評価額を、高圧線下に存することによる補正がなかったと仮定して算定し直す必要があります。高圧線下に存することによる斟酌(線下補正)がされているかどうかは、市区町村等の資産税課で確認できますので、必ず照会するようにします。
事例4 倍率方式の評価でも、現地調査を怠ると、とんでもないことに
相続税の土地評価方法は路線価方式と倍率方式があります。倍率方式は固定資産税評価額に倍率をかけるだけで、画地補正等が必要ないため、現地調査等をつい怠ってしまうことも多いと思います。
しかし、現地調査を怠るととんでもない事態になってしまうこともあります。稀な例だとは思いますが、固定資産税評価の基礎となる地目が現況地目と異なっていることがあります。弊社が扱った相続事案の中で、現況は畑であるにも関わらず、固定資産税評価額の地目が雑種地(駐車場)とされ、実際よりも格段に高い評価額となっているものがありました。現地調査でその事実を確認し、すぐに市の資産税課に地目の変更を求めました。市の担当者が過去の航空写真等による調査と関係者への事情聴取を行った結果、当方の主張が認められ、相続税申告期限の間際に地目が雑種地から畑に変更されました。地目の変更により評価額も税額も大幅に下がりました。もし、現地調査を怠り、単純に固定資産税評価額に倍率を乗じて評価していたら、とんでもないことになるところでした。相談のあった税理士さんや納税者に方に大変に喜ばれたことは言うまでもありません。
事例3 固定資産の交換の特例適用の場合の評価
固定資産の交換の課税特例を適用する土地の評価について相談があった。
いつも相続税の土地評価の依頼がある会計事務所からである。顧問先から交換特例の適用を受けるため申告の依頼があったとのことであるが、交換は終了し、登記も完了している。親族間の交換である。交換する2つの資産を等価とするため、面積を全く同じにして分筆している。譲渡資産と取得資産が同じ面積で等価なのだから、課税は全くされないと当人たちは思い込んでいるらしい。しかし、面積が同じだからといって、価額も同じとは限らない。むしろ、その方が少ない。相談のあった2つの土地は同じ路線に面しているが、形状がかなり異なるので、同じ価額にはならないと公図・住宅地図等を見た瞬間に分かった。それでも、いろいろ努力して評価したので、差額は10%程度となり、交換の特例の適用を受けることができた。
しかし、当人たちは、多少なりとも課税されることに対して不満そうであり、申告を依頼された税理士さんも困惑している。固定資産の交換特例を受けたいのであれば、交換する前に税理士や専門家に相談して欲しい。